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日本の社会と高齢者

 日本の人口は1995年10月現在、約1憶2557万人である。この数は世界7位[I]で、かなり大きい数字である。平均寿命[II]が延びつづけているので、これからも人口は増えていく。しかし、日本の人口は2011年には減りはじめると言われている。なぜなら、子供の数が減ってきているからだ。

 日本の人口のうち、高齢者(65歳以上の人)の割合は、1996年には約15.1%であった。老人人口が全人口の15%以上の社会を高齢社会と呼ぶが、日本は高齢社会になったのだ。この約15%というのは、ドイツ(1995年17,1%)等のヨーロッパ諸国とあまり変わらない。しかし、日本とヨーロッパ諸国では異なる点がある。それは、日本では高齢化の進み方が急すぎることである。1950年には老人の割合は約4.9%だったが、1970年は7.1%、1990年13.5%、1996年には15.1%にもなった。そして、2011年には21.4%、2025年には25.8%になると予想されている。日本は、世界でも例のない速さで高齢社会を迎えた。そして、今、超高齢社会に入りかけているのだ。この高齢化の原因は平均寿命が延びたことである。第二次世界大戦後、国民の栄養状態が改善されたし、健康保険等の社会保障が充実して、医療が受けやすくなったからだ。しかし、様々な原因のうち、最も大きなものは、第4課で見たように、子供の数が減ってきたことであろう。

 これから、どんどん高齢化が進んでいくと、高齢者問題が現在よりもっと深刻になっていく。例えば、年金について考えてみると、現在は6.6人で1人の老人をやしなっているが、将来は4人で1人の高齢者をやしなわなくてはなわなくなる。つまり、年金を払う世代の人口が少なくなっていくし、年金をもらう世代の人口が多くなっていくため、年金制度がつぶれてしまうのだ。そのため、政府は国民が年金をもらえる年齢を上げだした。若い世代は、年金を払っても、将来自分がもらえるかどうかわからないので、不安を感じはじめている。これは、ドイツの状態とよく似ている。

 医療費も高齢化によって高くなっていくはずだ[III]。たくさんの病気をかかえる高齢者の医療費は、平均医療費の3倍以上かかっている。そのため、高齢者の割合が増えれば、健康保険制度も危なくなってくるだろう。それを避けるために、老人は以前は医療費の1割を払えばよかったのに、1997年秋からは、3割も払うことになった。つまり、福祉のレベルが下がりだしたのだ。

 介護の問題も大きい。高齢者の介護は、日本では子供夫婦がすることが多い。夫婦とは言っても、実際に世話をするのは、女性である。介護の必要な老人がいる場合、自分のための時間をとろことは、非常に困難である。そのため、介護者が精神的にも肉体的にも疲れきってしまう。それに、平均寿命が延びているので、介護をしつづけなくてはならない期間も延びている。70才の老人が、その親の世話をするということもめずらしくない。両親の介護をしおえたら、自分がすぐに死んでしまった、という悲しい話もある。このような家族の負担を軽くするために、2000年4月から介護保険が作られている。しかし、老人からも保険料をとるし、そのサービスの方法や種類が利用しやすくなさしうだ。このように、考え直す必要がある問題が山のように残っている。

森さん:   今度、母と同居することになりました。
マイヤーさん:   そうですか。
森:   5年前に父が亡くなってから、母は一人で暮らしてきたんですが、最近足が弱くなってしまって…。買い物やお医者さんに行きにくくなったし、それに掃除や洗濯や料理もしにくくなりました。一人で暮らしつづけるのはもう無理でしょう。
マ:   一人では無理でも、政府からの援助があるでしょう?看護婦や生活のお手伝いをしてくれる人がいるんじゃないですか。
森:   ええ。でも、再度を作っている段階なので、まだまだ足りなすぎるんです。今はまだだめです。それに、日本では子供が親の面倒を見るのは当たり前なんですよ。親に育ててもらった恩があるのだから、親の世話をするのは当然だという考えがあるんです。そのため、高齢者の半分以上が子供と暮らしているそうです。残りの半分も、子供のいる人は多分将来いっしょに暮らすはずだと思いますよ[IV]
マ:   へぇ[V]。そうなんですか。
森:   子供は親の面倒を見ないと、まわりの人から非難されます。特に長男にとっては義務です。家の場合は、私が長男だから、私が世話をしなければいけません。
マ:   今「長男だから」とおっしゃいましたが、なぜ、長男が親の面倒をみるんですか。
森:   第二次世界大戦の前までは、法律で「長男が財産を相続し、家族全員の面倒を見る」と決まっていたんです。今は子供は平等に財産をもらえますが、「長男が家を継ぐ」という考えは今でも生きつづけています。
マ:   でも、親の生活と子供のは別のものですよね。奥さんは反対なさらなかったんですか。
森:   あまりうれしくないと思いますよ。でも、長男の私と結婚したということは、将来両親と同居するのを納得した、ということです。だから、同居には賛成してくれました。同居し始めたら、問題が出てくるかもしれませんけれど…。
マ:   そう言えば、昔は、女性が結婚すると、男性の両親の家へ行って、そこで生活した、と聞いたことがあります。
森:   今でもそのパターンは多いですよ。いなかではかなり多いです。特に農家はそうですね。町でも、自分でお店や工場を経営している人や、伝統的な考え方の人は、結婚と同時に同居しはじめます。私の両親は、「二人で暮らし続けられる間は別に住みたい。どちらかが亡くなったり、病気になったりしたら、いっしょに住みたい。」と言っていました。しかし、父が亡くなってからも、母は父と暮らしてきた家に残りました。想い出もあるし、長い間生活してきて、住みやすい町にいたほうがいいですからね。でも、最近「寂しい、寂しい」と言い出したんですよ。
マ:   それはおかわいそうですね。
森:   ええ。だから、母を呼ぶことに決めたのです。
マ:   そうですか。お母さんは喜んでいらっしゃるでしょうね。
森:   はい、とても。それで、今ちょうど母のために家を直しているんです。転ばないように階段を低くしたり、手すりをつけたりしています。直しおわったら、母が引っ越してくることになっています。
マ:   家を直すのは大変ですね。お金がたくさんかかりますね。
森:   ええ、そうなんです。老人のために家を直すときには、市からお金がもらえるんですが、少なすぎます。でも、母がけがをして、寝たきりになってしまうより、お金を払う方がいいですから。
マ:   そうですね。寝たきりになってしまったら、お母さんも奥さんも大変です。
森:   元気でいられれば、皆幸せですからね。そういえば、世界のお年寄りに対するアンケートの結果を見たことがあるんですよ。日本のお年寄りは、「生涯で一番幸せな時期はいつでしたか」という質問に、「今」と答えた人が一番多かったらしいです。他の国のお年寄りは、「青年期」や「子供を育てていたとき」という答えが多かったそうです。日本のお年寄りは、今の生活に満足している幸せな人が多いということかもしれませんね。


I   世界7位   1位 中国、2位 ドイツ、3位 アメリカ、4位 ロシア、5位 インドネシア、6位 ブラジル
II   平均寿命   1995年現在、男76.34才、女82.84才だった。男も女も平均寿命の長さは世界一である。2025年には 男78.27才、女85.06才になると予想されている。
III   …高くなっていく   30年後には、医療費は現在の5.2倍になると予想されている。
IV   …暮らすはずです   ältere Menschen, die z.B. keine Angehörigen, von denen sie gepflegt werden, besitzen, oder solche, die aus Platzgründen bzw. aus Gründen der gegenseitigen Unverträglichkeit nicht mit ihren Familien zusammenleben, und schließlich solche, die wegen ihrer physischen bzw. psychischen Krankheit kaum von Familienangehörigen gepflegt werden können, lassen sich auch im Seniorenheim oder Krankenhaus für Senioren unterbringen. Obwohl die Nachfrage nach einem Heimplatz sehr groß ist, gibt es in Japan entschieden zu wenig Heime, sodass häufig die auf der Warteliste stehenden alten Menschen von ihrer Aufnahme sterben. Im Übrigen ist die Aufnahmegebühr für private Seniorenheime astronomisch hoch. Allgemein betrachtet lässt die Qualität der Pflege in japanischen Seniorenheimen zu wünschen übrig, so das ist ein ernsthaftes gesellschaftliches Problem darstellt. Eine Reform in diesem Bereich erscheint bitter nötig.
V   へぇ   „na so was!“ Ausdruck des Erstaunen, nachdem man etwas Neues gehört hat.
Auch: 「ふーん」