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日本の昔話-わらしべ長者[I]

 昔、京都にとても貧乏な男がいました。その男はあまりに困っていたので、観音様を拝みに奈良[II]へ行きました。そして、「どうかお助け下さい、お助け下さい」と何日も拝んでいると、ある晩不思議な夢を見ました。観音様がおいでになって、こうおっしゃったのです。「かわいそうだが、助けることはできない。しかし、ほんの少しの物をやる。だから、家へ帰りなさい[III]。」

 男は目が覚めると、家へ帰ることにしました。しかし、お寺の門を出ようとしたとき、うっかり転んでしまいました。「おや。」男はそのとき、手に一本のわらをつかんでいることに気づきました。「ここでこれをつかんだということは、これが観音様のくださった物だということだ。」男はそのわらをおただいて、歩いて行きました。

 京都へ向かって歩いていると、虫が顔の前に飛んできました。男は木の枝をひろって、たたいたり払ったりしました。しかし、虫は逃げないで、どこまでもついてきました。うるささにがまんできなくなった男は、虫をつかまえて、わらでしばり、そのわらを枝に結んでしまいました。虫は枝のまわりを飛んでいました。

 そこへお金持ちのお母さんと子供が、家来を連れてやってきました。子供は男の持っている虫を見て、とてもほしがりました。そこで、家来が男のところへ来て言いました。「おぼっちゃんがその虫がほしいとおっしゃっている。それを差し上げてくれないか。」男は、「このわらは、観音様からいただいた大切は物なんですが、差し上げましょう。」と答えて、家来に虫を渡してあげました。お母さんはとても喜んで、お礼に見事なみかんを三つくれました。男は、「一本のわらが、あっという間にこんな見事なみかんになった。ということは、これも観音様のお力だ。」と感謝しました。

 みかんをもらって歩いて行くと、水をほしがっている女の人がいました。しかし、水が近くになかったので、男はこう言ってあげました。「このみかんを差し上げましょう。」女の人はとても喜んで、みかんをもらって食べました。「本当にありがとうございました。もしみかんをくださらなかったら、私は死んでいたかもしれません。旅の途中なので、何もありません[IV]が、これをどうぞ。」と女の人は言って、お弁当とすばらしい布を三着分きれました。「ただのわらが、こんなすばらしい布になった。観音様、ありがとうございます。」男は観音様のお寺の方を向いて、拝みました。

 夕暮れが近づいたころでした。さむらいが家来を連れて、りっぱな馬に乗って来ました。その馬が急にたおれて死んでしまったのです。さむらいはとても急いでいたので、家来に馬の始末を頼んで、先に行ってしまいました。困ったのは家来達です。遠いところから来たので、どうしたらいいのか[V]わからなかったのです。貧乏な男はかわいそうだと思って話しかけました。「私がその馬をいただいて、始末して差し上げましょうか。馬のかわりにこの布を差し上げますよ。」男がそう言いながら、一着分の布を出すと、家来達は大変喜びました。そして、布と馬を交換してもらうと、その馬の馬具を持って、すぐにさむらいを追いかけて行きました。男は「わらが馬一頭と布二着分になりました。馬が生きていたら、もっと良かったのですが。」と観音様を拝みました。すると、突然、馬が目を開けて立ち上がりました。観音様が馬を生き返らせてくれたのです。男は観音様の力に驚いて、感謝しました。そして、馬具のない馬を連れていると疑われるかもしれないので、馬をかくしておいて町へ行きました。そこで残った布を売って、馬具とえさを買ってきました。

 京都に着いたのは、次の朝でした。町の入り口に大きな家がありました。人が大騒ぎして、忙しそうに働いていました。どこが遠くへ引っ越すようでした。「引っ越しのときには、馬が要ることが多い。もしかしたら、買うかもしれない。」と男は考えて、「馬はいかがですか。お求めになりませんか。」と声をかけてみました。家の中から主人が出てきて、馬を見て言いました。「とても良い馬だ。ぜひ売ってもらいたい。しかし、これから旅に出るので、物や金は必要なのだ。実は近くに田があるのだが、それと取り替えてくれないだろうか。ぜひそうしてほしい。」男が「結構でございます。」と言うと主人は大喜びでこう言った。「そうしてくれると助かる。それから、もう一つやってもらいたいことがある。実はこれから関東へ行かなければならないのだが、もし良ければ留守の間、この家に住んで留守番をしてほしいのだ。」貧乏で、住む家もない男は大喜びで承知しました。

 男はその家に住んで、家の人が帰ってくるのを待ちました。一年、二年、三年…。十年経っても、二十年経っても、帰ってきませんでした。それで、とうとうその家も男の物になってしまいました。一本のわらが、大きな家と田んぼになったのです。そして、男もその子孫もずっと観音様に感謝して、幸せに暮らしたそうです。

I   わらしべ長者   etwa: „Der Strohhalm Millionär“
    (わらしべ = fadendünne Innenfaser des Reisstrohs)
II   奈良(なら)   von 710-784 Hauptstadt Japans
III   帰りなさい   Imperativ „geht zurück (nach Hause)“ von 帰る, siehe Lektion 12
IV   何もあらませんが   im Sinne von: ich habe zwar nichts Besonderes;
    ich habe nichts, was Ihnen gefallen könnte.
V   どうしたらいいのかわからない   nicht wissen, was sie tun sollten


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来生愛、管理官
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