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敬語―1

 敬語はよく日本語の特色の一つにあげられる。敬語は話し相手への尊敬を表す表現である。このような表現が日本語では特に発達しているのだ。もちりん、敬語は日本語だけではなく、ドイツ語など他の国の言葉にもある。しかし、敬語は日本語ではドイツ語等よりずっと多く使われているし、ずっと複雑なのである。そのため、日本語の特徴として敬語があげられても不思議ではない[I]

 敬語は難しいとよく言われるが、敬語そのものはそれほど難しくない。単語や形を覚えれば良いのだ。しかし難しいのは、「いつ、だれに、どのくらい敬語を使えば良いのか」を知って、必要なときにすぐ使うことができるようになることだ。

 基本的には、目下、つもり社会的地位が下の人が、目上、つまり社会的地位が上の人に敬語を使う。この社会的地位は、年齢、職業上の地位、性別[II]等で決まる。若い人は年上の人に(日本では大学でも1歳年が違えば敬語、少なくとも「です・ます」を使う)、学生は先生に、部下は上司に敬語を使うのだ。どの程度の敬語を使うかは、社会的地位の差や、親しさで決まる。しかし、いつも目下の人が目上の人に敬語を使うのではない。目上でも、いつも丁寧でありたい[III]と思う人は、相手が目下でも敬語を使うことが少なくないのだ。

 また、初めで会った人や、あまり親しくない人にも敬語は使われる。始めは敬語を多く使い、親しくなるとだんだん敬語を使わなくなる。敬語は相手との距離も表すのだ。だから、同じ年の人に敬語を使うと、距離ができてしまい、なかなか親しくなれないこともある。それで、敬語を使わないことで親しさを表そうとする人もいる。

 もちろん、ドイツ語と同じように、改まった場面では丁寧な表現は必要だ。スピーチ等で、大勢の人の前で話すときは、敬語を使わなければならない。また、日本語がドイツ語と違う点は、手紙を書くときに改まった言葉を使うことだ。手紙は改まって書くものとされているのだ。あまり丁寧な言葉で話していない親しい相手にも、手紙ではいつもより丁寧な表現を使って書く。

鈴木教授:   マイヤーさんはドイツからいらっしゃったんだよね。どちらからですか。
マイヤー:   デュースブルクという町から参りました。あまり日本では知られていない町なのでご存じない[IV]と思いますが、デュースブルクはルール地方にございます。
鈴:   ああ、ルール地方ですか。じゃあ、工業都市だね。
マ:   はい。あまりきれいな町ではございませんが、私は好きです。先生はドイツへいらっしゃったことがありますか。
鈴:   ええ。10年ほど前に一度行きましたよ。良い国ですよね。
マ:   どちらにご旅行なさいましたか。
鈴:   ハイデルベルクとローテンブルク、それからミュンヘン等です。
マ:   そうですか。南の方をご覧になったんですね。どちらの町が一番お好きでいらっしゃいますか。
鈴:   どこもいいですねぇ。でも、私はハイデルベルクが一番だなぁ。歴史のある美しい大学町だし、思い出があるんです。ハイデルベルク大学には、昔日本での会議にお見えになった教授がおいでで、その方のところへ伺ったんです。教授は日本が大変お好きで、よく家で着物をガウン[V]のようにお召しになるとおっしゃっていました。日本酒も召し上がるんですよ。だから日本の古い花びんをおみやげに差し上げたら、立派なご本を下さいました。これがいただいたご本ですよ。
マ:   ちょっと拝見します。
鈴:   どうぞ。
マ:   面白そうなご本ですね。
鈴:   興味があれば、貸しますよ。
マ:   ありがとうございます。じゃあ、来週またお持ちします。ところで、ローテンブルクはいかがでしたか。日本の方にはとても人気があるようで、皆様とてもきれいだとおっしゃいますが、わたくしはまだ行ったことがないんです。
鈴:   そうだねぇ。確かにきれいだけれど、日本人やアメリカ人の観光客が多くで…。人が少ないときに行けばもっと良かっただろうね。
マ:   先生はまたドイツへいらっしゃるご予定は。
鈴:   来年行こうかと思っていますが。
マ:   じゃあ、ぜひわたくしのところへもいらっしゃってください。私も来年はドイツにありますし、ケルンなど、先生にお目にかけたいところがたくさんございますから。
鈴:   それは嬉しいね。じゃ、お世話になろうか。
マ:   ご希望がございましたら、おっしゃってくださいね。準備致します。
鈴:   ありがとう。楽しみにしていますよ。


I   日本語の…不思議ではない   Allerdings gibt es im Koreanischen und Javanischen auch eine stark entwickelte Höflichkeitssprache.
II   性別   Früher verwendeten Frauen gegenüber dem Mann die Höflichkeitssprache.
III   丁寧でありたい   丁寧である+~たい
IV   ご存じない   Negation von ご存じ (siehe Lektion 2)
V   ガウン   Morgenmantel